50代後半の主婦である私も、数年前から血圧が高めと診断され、漠然と将来の医療費に不安を感じていました。特に、年金暮らしの親が毎月1万円を超える医療費と薬代に頭を悩ませている姿を見るたびに、私自身の未来も重なり、心の奥底で焦燥感が募るばかりでした。年を重ねるごとに増えていく通院回数、薬局で支払うたびに重くなる財布。鏡に映る自分の顔には、いつの間にか疲労の色が濃く刻まれているように感じていました。
「このままでは、貯金が底をついてしまうのではないか…」
「年金だけでは、こんなに医療費がかかるなんて思ってもみなかった…」
そんな心の声が、夜な夜な私の頭の中を駆け巡るのです。高血圧と糖尿病という持病は、一度診断されれば一生付き合っていくもの。わかってはいるものの、毎月1万円を超える医療費と薬代は、年金暮らしにはあまりにも重い負担でした。ジェネリック医薬品に変えてもらったところで、焼け石に水。根本的な解決には至らず、「これ以上、何をどうすればいいの?」と、私は途方に暮れていました。
60代を蝕む「医療費の重い鎖」:ジェネリックだけでは解けない現実
多くの60代の方々が、私と同じような悩みを抱えているのではないでしょうか。厚生労働省のデータを見ても、65歳以上の医療費は年々増加の一途を辿っています。特に、高血圧や糖尿病といった生活習慣病は、一度発症すると継続的な治療が必要となり、医療費が家計を圧迫する大きな要因となります。
ジェネリック医薬品は確かに薬代を抑える有効な手段です。私も医師に相談し、可能な限りジェネリックに切り替えました。しかし、それでも毎月1万円を超える医療費を前にすると、その効果も限定的に感じざるを得ませんでした。なぜなら、医療費の負担は薬代だけではないからです。診察料、検査費用、そして通院のための交通費。これらすべてが積み重なり、私たちの家計に重くのしかかってくるのです。
「なぜ私だけがこんなに苦しい思いをしなければならないのだろう…」
「もっと早く、何か対策ができていれば…」
そんな後悔と焦燥感が、私の胸を締め付けました。まるで、医療費という名の見えない鎖にがんじがらめにされているような感覚でした。このままでは、大切な老後資金が底を尽き、子供たちに心配をかけてしまうのではないか。そんな不安が、日に日に募っていったのです。
絶望の淵で見つけた光:FPの友人との再会が運命を変えた
ある日、私は学生時代からの親友であり、現在はファイナンシャルプランナーとして活躍している田中由美さん(仮名)と久しぶりに会う機会がありました。カフェで他愛のない話をしているうちに、私はふと、自分の医療費の悩みを打ち明けていました。由美さんは私の話を真剣に聞いてくれ、そして、私の目を見てこう言いました。
「ねえ、医療費の負担、諦めるにはまだ早いよ。知るだけで、未来は変わるんだから。」
由美さんの言葉は、まさに絶望の淵にいた私にとって、一筋の光のように感じられました。彼女は私に、高額療養費制度のこと、そしてそれ以外にも私たちが活用できる様々な医療費節約術があることを教えてくれたのです。私は由美さんのアドバイスを一つ一つメモし、その日から医療費の「底なし沼」から抜け出すための戦いを始めました。
知るだけで1万円減も夢じゃない!高額療養費制度の賢い活用術
由美さんがまず教えてくれたのは、「高額療養費制度」についてでした。私はその名前こそ知っていましたが、実際にどう活用すれば良いのか、具体的な仕組みまでは理解していませんでした。
「高額療養費制度はね、ひと月にかかった医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度なのよ。国民健康保険でも、会社員時代の健康保険でも、必ず適用される大切な制度なんだから、絶対に活用しなきゃ損よ!」
由美さんはそう言って、具体的な計算方法を教えてくれました。自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。例えば、70歳未満で一般所得者の場合、自己負担限度額は「80,100円 + (総医療費 − 267,000円) × 1%」という計算式で求められます。これを超えた分が払い戻されるのです。
「例えば、総医療費が100万円かかったとしましょう。3割負担だと30万円よね。でも、この制度を使えば、自己負担は限度額までで済むの。さらに、過去12ヶ月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合は、『多数回該当』といって、4回目からは自己負担限度額がさらに引き下げられるのよ。これは、慢性疾患で毎月のように高額な医療費がかかる人には本当にありがたい制度なの。」
私は由美さんの説明を聞きながら、目から鱗が落ちる思いでした。毎月1万円を超える医療費に悩んでいた私にとって、この制度はまさに救世主です。申請は、加入している健康保険組合や市町村の窓口で行います。事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払いを最初から限度額までに抑えることもできると教えてくれました。
まだある!医療費の負担を軽減する賢い選択肢
高額療養費制度以外にも、由美さんは様々な医療費節約術を教えてくれました。これらを組み合わせることで、さらに医療費の負担を軽減できると知り、私は希望に満ちた気持ちになりました。
1. 医療費控除を最大限に活用する
「年間で10万円以上の医療費がかかった場合、確定申告をすることで医療費控除が受けられるわ。これは、自分だけでなく、生計を一つにする家族の医療費も合算できるから、忘れずに活用してね。通院のための交通費(公共交通機関に限る)も対象になるから、領収書はきちんと保管しておくことが大切よ。」
由美さんはそう言って、家族全員の医療費を計算し、合算することの重要性を強調しました。私の親の医療費も、もし私が生計を支えているなら合算できると聞き、具体的なアクションプランが見えてきました。
2. セルフメディケーション税制を活用する
「特定の市販薬(OTC医薬品)を購入した場合に受けられるのが、セルフメディケーション税制よ。これは、医療費控除とは別に適用できる制度で、年間1万2千円を超えた分の購入費用が所得控除の対象になるの。ただし、医療費控除とは併用できないから、どちらか有利な方を選ぶ必要があるわね。」
私も普段から風邪薬や胃腸薬などを購入することがあるため、これらのレシートも保管しておくことの重要性を再認識しました。
3. かかりつけ医・かかりつけ薬局を持つ
「複数の病院に通っていると、同じ検査を繰り返したり、薬の重複や飲み合わせが悪くなったりすることがあるわ。だから、かかりつけ医と、できればかかりつけ薬局を決めて、情報を一元管理してもらうのが一番賢い方法よ。医師や薬剤師も、あなたの病状全体を把握しやすくなるし、無駄な医療費の発生を防ぐことにも繋がるわ。」
由美さんのアドバイス通り、私は複数の病院に通っていた親の医療情報を整理し、かかりつけ医に相談して、薬の管理を一元化するよう促しました。これにより、無駄な薬代や診察料を減らすことができました。
4. 特定健診や人間ドックを積極的に活用する
「病気になってから治療するよりも、病気になる前に予防したり、早期に発見して治療する方が、結果的に医療費は安く済むことが多いわ。自治体で行っている特定健診や、人間ドックなどを積極的に活用して、自分の健康状態を定期的にチェックすることが大切よ。」
私もこれを機に、自治体の無料健診を毎年受けることにしました。早期発見こそが、将来の大きな医療費負担を避けるための最善策だと痛感しました。
5. 市町村独自の助成制度をチェックする
「住んでいる地域によっては、独自の医療費助成制度を設けているところもあるわ。例えば、特定の疾患に対する助成や、高齢者向けの補助などね。市町村の窓口やウェブサイトで情報を確認する価値は十分にあるわよ。」
これは盲点でした。自分の住む市のウェブサイトを調べてみると、高齢者向けのインフルエンザ予防接種費用の助成があることを発見しました。知っているか知らないかで、大きな差が生まれることを実感しました。
医療費節約術:賢い選択で変わる家計と心
由美さんのアドバイスを実践する前と後で、私の家計と心境は大きく変わりました。
| 項目 | 以前の私(実践前) | 今の私(実践後) |
|---|---|---|
| 毎月の医療費 | 1万円超が当たり前。不安で家計簿を見るのが億劫。 | 高額療養費制度やジェネリックで負担が軽減。約7千円に。 |
| 薬代 | ジェネリックでも高いと感じ、ため息ばかり。 | セルフメディケーション税制も意識し、賢く購入。 |
| 健康意識 | 病気になったら仕方ない、と半ば諦め。 | 予防医療や定期健診の重要性を認識し、積極的に行動。 |
| 心の状態 | 医療費の不安で夜も眠れない日も。子供に申し訳ない。 | 知識を得て行動したことで、安心感が生まれ、前向きに。 |
| 情報収集 | 制度が複雑で理解を諦めていた。 | FPの友人や公的機関の情報を積極的に活用。 |
よくある質問Q&A:医療費節約の疑問を解消!
Q1: 高額療養費制度は、毎月申請が必要ですか?
A1: 基本的には、ひと月ごとに自己負担限度額を超えた場合に申請が必要です。ただし、事前に「限度額適用認定証」を申請して医療機関の窓口に提示すれば、窓口での支払いが自己負担限度額までで済むため、毎月の払い戻し申請の手間を省くことができます。由美さんによると、「特に慢性疾患で毎月高額な医療費がかかる方は、認定証の事前取得がおすすめです」とのことでした。
Q2: 医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できますか?
A2: いいえ、残念ながら医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。どちらか一方を選択して適用することになります。ご自身の状況に合わせて、より有利な方を選びましょう。由美さんからは、「家族全体の医療費と、OTC医薬品の購入費を比較して、専門家や税務署に相談するのが確実です」とアドバイスをもらいました。
Q3: どの病院を選べばいいですか?
A3: 持病の治療には、信頼できる「かかりつけ医」を持つことが非常に重要です。複数の病院に通うと、薬の重複や検査の無駄が生じる可能性があります。かかりつけ医はあなたの健康状態を一元的に把握し、最適な治療計画を立ててくれます。由美さんも、「まずは信頼できる医師を見つけることが、長期的な医療費節約にも繋がります」と話していました。
医療費の不安を安心に変える、たった一つの秘訣
高血圧や糖尿病といった持病を抱えながらの年金暮らし。毎月の医療費が1万円を超えるという現実は、多くの60代の方々にとって、まさに「底なし沼」のような不安をもたらすことでしょう。私もかつてはそうでした。しかし、FPの友人である田中由美さんの助けを借り、高額療養費制度をはじめとする様々な医療費節約術を学び、実践したことで、今では医療費への不安は大きく軽減されました。
大切なのは、「知らない」ことで損をしないこと。そして、「知った」ら「行動する」ことです。医療費の負担は、諦めるしかないものではありません。知識を身につけ、賢く制度を活用することで、あなたの家計も心も、きっと明るい未来へと変わっていくはずです。
もしあなたが今、医療費の負担に悩んでいるなら、ぜひ今回ご紹介した制度や方法を試してみてください。そして、もし不安な点があれば、お近くの市町村の窓口や、私たちのようなファイナンシャルプランナー、税理士といった専門家へ相談することをお勧めします。あなたの健康と、心豊かな老後のために、今日から一歩踏み出しましょう。
この記事を書いた人
佐々木 恵子 | 58歳 | 健康と家計を守るライフプランナー
私自身、高齢の母の医療費に頭を悩ませた経験があります。年金暮らしの母が安心して暮らせるよう、医療費制度や賢い節約術を徹底的に学び実践してきました。その経験から、同じ悩みを抱える方々の力になりたいと、日々情報発信を続けています。健康で心豊かな毎日を送るためのヒントを、等身大の視点でお届けします。

