「座って挨拶してればいい仕事だと思ってました」
そう言って苦笑いする佐藤健二さん(仮名・65歳)。
定年退職後、「第二の人生」として選んだマンション管理員の仕事を、わずか半年で辞めた彼に話を聞きました。
もしあなたが今、「退職後の暇つぶしに」「ちょっとした小遣い稼ぎに」と考えているなら、この記事を読んでから決めても遅くありません。
これは求人広告には絶対に載らない、ある男性の「あの半年間」の記録です。
朝8時、舌打ちされた瞬間
「チッ…いつまで掃除してんだよ、邪魔なんだけど」
エントランスで床を拭いていた私の横を、30代くらいのスーツ姿の男性が通り過ぎていきます。
頭を下げて謝る私を、彼は一瞥もせずにエレベーターへ。
(何か悪いことしたかな…まだ8時だぞ)
心の中でそう呟きながら、私はもう一度床に目を落としました。
私、佐藤健二(仮名)は、今年の3月まで中堅の電子部品メーカーで部長をしていました。
定年退職後、家で妻に煙たがられるのも嫌だし、かといって毎日ゴルフに行く金もない。
「管理人って、座って挨拶するくらいでしょ?いい運動にもなるし」
そんな軽い気持ちで、求人サイトで見つけたこの仕事に応募したんです。
月給は20万円。週5日勤務で、8時から17時まで。
「まあ、悪くないな」
そう思っていたのは、最初の2日間だけでした。
真夏のゴミ置き場で気づいたこと
7月のある朝、ゴミ置き場の担当になりました。
ドアを開けた瞬間、鼻を突く臭い。
生ゴミが入った袋が破れて、床に黒い液体が広がっています。
缶も瓶もペットボトルも、全部同じ袋に突っ込んである。
「えっと…これ全部、俺が分別するの?」
管理会社の担当者に電話したら、
「はい、それが管理員さんの仕事ですから」
と、さらっと言われました。
(40年間、会社で働いてきて…定年後にやることがこれなのか)
ゴム手袋をして、鼻で息をしないようにしながら、一つ一つ分別していきます。
腰が痛い。膝が痛い。手が汚れる。
「佐藤さーん!また分別できてないじゃない!ちゃんと見てないんですか?」
振り向くと、304号室の女性が腕組みをして立っています。
いつも細かいことで文句を言ってくる人です。
「申し訳ございません。すぐに片付けます」
頭を下げながら、心の中で叫んでいました。
(俺だってやってんだよ!これ出したの俺じゃないし!)
でも、そんなこと言えるわけがありません。
「管理費払ってるのは私たちよ」
そう言われたら、何も言い返せないんです。
元部下には絶対に見られたくない姿
ある日の昼休み、管理人室で弁当を食べていたら、見覚えのある車がマンションの前に停まりました。
(やばい…)
かつての部下、田中です。
このマンションの7階に住んでる住民の一人で、転職して今は別の会社にいるはず。
「佐藤さん!?ここで働いてたんですか!?」
嬉しそうに声をかけてくる田中。
でも私は、どう顔を合わせていいかわからなくて、曖昧に笑うしかできませんでした。
「まあ、定年後の暇つぶしみたいなもんだよ」
強がってそう言ったけど、本当は違います。
元部下に、こんな姿見られたくなかった。
現役時代、スーツ着てネクタイ締めて、会議で指示を出してた私。
今は、作業着着て、ゴミの分別して、住民に頭を下げ続けてる。
その夜、家に帰ってから妻に言いました。
「この仕事、辞めようかな」
なぜこんなに辛いのか?3つの理由
半年間働いて、私なりに分析してみました。
なぜ「マンション管理人」がこんなに精神的にくるのか。
1. 「使用人」扱いしてくる住民がいる
全員じゃないです。優しい人もいます。
でも、一部の人は本当にひどい。
「電球取り替えて」
「粗大ゴミ運んで」
「宅配の荷物、部屋まで持ってきて」
これ、全部本来の仕事じゃないんです。
でも断ると、「管理会社に言うわよ」って脅されます。
管理費払ってる=私を雇ってる、と勘違いしてる人が結構いるんです。
対等な人間として見てもらえない感じが、一番きつかった。
2. 管理会社は助けてくれない
住民からクレームが入ると、管理会社の担当者からすぐ電話がきます。
「佐藤さん、○○号室の方から苦情きてますよ。気をつけてくださいね」
事情を説明しても、
「まあ、現場でうまくやってください」
で終わり。
守ってくれないんです、この会社。
私たち管理員は、いつでも替えが効く存在なんだと思い知らされました。
3. 想像以上に「汚れ仕事」が多い
受付や巡回だけじゃありません。
- エレベーター内の嘔吐物の処理
- 排水溝の詰まり対応
- 植栽の剪定(夏場は虫だらけ)
- 駐車場の除草
65歳の体には、正直きつい。
特に真夏と真冬。
「健康のため」に始めた仕事で、腰を痛めて整骨院通いになりました。
「でも生活費が必要だから…」と思ってるあなたへ
ここまで読んで、
「そうは言っても、お金がないから辞められない」
と思った方もいるかもしれません。
私もそうでした。
年金だけじゃ足りない。妻のパート代と合わせても、ギリギリ。
でも、気づいたんです。
お金のために、自分の尊厳を削り続けるのは違うって。
今、私は早朝の公園清掃のボランティアをしています。
お金は出ません。でも、「ありがとう」って言ってもらえる。
対等な人間として接してもらえる。
月20万円は確かに魅力的です。
でも、精神的に壊れたら、医療費でそれ以上飛びます。
実際、私は半年で整骨院に4万円以上使いました。
それでもこの仕事を選ぶなら、知っておくべき3つのこと
「それでも挑戦したい」という方に、私からのアドバイスです。
1. 期待しないこと
「感謝される」とか「住民と仲良く」とか、期待しちゃダメです。
挨拶が返ってこなくて当たり前。
そう思っておけば、傷つきません。
この仕事は「建物を守る」のが目的であって、「住民に好かれる」ことじゃない。
そう割り切れるドライさが必要です。
2. 自分の仕事範囲を明確にする
雇用契約書、ちゃんと読んでください。
どこまでが仕事で、どこからが断っていいのか。
「部屋の中のこと」は、基本的に管理員の仕事じゃありません。
「それは契約外ですので、管理会社へご連絡ください」
この一言を、丁寧に、でもはっきり言えるようになってください。
3. 逃げ道を作っておく
「この仕事しかない」と思うと、追い込まれます。
私は、週末にハローワークのサイトを見るようにしていました。
「いつでも辞められる」と思えると、少し楽になります。
あなたの人生、この仕事だけじゃない。
そう思えることが、心の支えになります。
もし今、辞めるか迷ってるなら
最後に、あなたに伝えたいことがあります。
私は半年で辞めました。
辞めると決めた日、不思議と空が青く見えたのを覚えています。
「逃げた」って思う人もいるかもしれません。
でも、逃げることも、立派な選択です。
あのまま続けていたら、私は人間不信になっていたと思います。
妻にも、子供にも、優しくできなくなっていたかもしれない。
入居者が捨てたゴミは拾えても、
捨てられたあなたの自尊心を拾えるのは、あなただけです。
体が悲鳴を上げる前に。
心が壊れる前に。
正しい選択をしてください。
あなたのこれまでの人生は、誰かに罵倒されるために あったわけじゃないんですから。
それでも今すぐ動けないあなたへ
「辞めたいけど、まだ決心がつかない」
「でも毎日がつらい」
そんなあなたに、今日からできることを3つだけ。
1. 同じ境遇の人の声を聞く
転職サイトの口コミ、SNS、Yahoo!知恵袋。
「マンション管理員 大変」で検索してみてください。
あなただけじゃない。それを知るだけで、心は軽くなります。
2. 日記をつける(スマホのメモでOK)
毎日の出来事を、3行でいいから書く。
「今日もゴミ置き場がひどかった」
「304号室の人にまた怒られた」
文字にすると、客観視できます。
そして後で見返すと、「こんな環境、異常だ」と気づけます。
3. 誰かに話す
家族、友人、誰でもいい。
話せる人がいないなら、市の無料相談窓口や、ハローワークの相談員でもいい。
私は、妻に全部話しました。
「情けない」と思われるかと思ったら、
「よく頑張ったね。もう辞めていいよ」
そう言ってもらえた。
一人で抱え込まないでください。
【次の一歩】あなたに合った仕事を見つけるために
もし「やっぱり自分には合わないかも」と感じたら、
シニア向けの求人サイトで、他の選択肢を見てみてください。
- シルバー人材センター
- ハローワークのシニア専用窓口
- Indeed、マイナビミドルシニアなどの求人サイト
管理人の仕事だけが、あなたの選択肢じゃない。
私は今、図書館の配架ボランティアも始めました。
週2日、2時間だけ。お金は出ないけど、本が好きだから楽しい。
「お金」も大事。
でも「心の平穏」も、同じくらい大事。
あなたの「第二の人生」が、穏やかなものになりますように。

