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60代からの「虚しい節約」卒業術:人生を彩るお金の使い方

「いつまで、このままなんだろう…」

60代後半、夫と二人暮らしの私、恵子(仮名)は、スーパーの割引シールを追いかける自分の姿に、ふと虚しさを覚えることがあります。若い頃から「老後のため」とコツコツ節約し、それなりの貯蓄はできました。でも、この年齢になると「いつまで生きられるか」なんて誰にも分からない。それなのに、まだ一円を惜しむ生活から抜け出せずにいる。「何のために、こんなに頑張ってきたんだろう?」そう心の声が響くたび、胸の奥が締め付けられるような孤独感に襲われるのです。

もしかしたら、あなたも同じような悩みを抱えていませんか?長年の節約習慣が、いつの間にか心の重荷になり、人生の楽しみを見失いかけているとしたら、それはとても悲しいことです。貯蓄は人生を豊かにするための「手段」のはずなのに、いつの間にか「目的」になってしまっている。そんな矛盾に気づいた時、私はある決断をしました。

なぜ「老後の節約」は虚しくなるのか?その深層に潜む真実

長年続けてきた節約が、なぜ60代になって急に「虚しい」と感じるようになるのでしょうか。それは、若い頃の節約と、今の節約では根本的な「意味」が異なっているからです。20代、30代の節約は、未来への投資でした。住宅購入、子どもの教育費、そして漠然とした老後への備え。明確な目標があったからこそ、頑張れたのです。しかし、その目標の多くが達成され、あるいは手の届く範囲になった時、羅針盤を失った船のように、私たちは漂い始めるのです。

「老後の不安」という漠然とした目標だけでは、心は満たされません。貯蓄額が増える喜びは一瞬で、すぐに次の不安が頭をもたげる。「もっと貯めないと」「何があるかわからないから」という心理が、私たちをいつまでも節約の呪縛から解放しないのです。これが、まさに私が陥っていた状況でした。

ある日、長年の友人であり、ファイナンシャルプランナーとして活躍している田中由美さん(仮名)に、何気なくこの悩みを打ち明けたことがあります。

「由美さん、私ね、最近スーパーの割引シールを見るたびに、なんだか自分が惨めになるの。もういい歳なのに、まだこんなことしてるって…」

由美さんは私の話にじっと耳を傾け、優しくこう言いました。

「恵子さん、それはね、『貯蓄の目的が曖昧になっている』証拠よ。若い頃の節約は『守り』の貯蓄だったけど、今の恵子さんの貯蓄は、もう『攻め』に転じてもいい時期なのよ」

由美さんの言葉は、私の心に深く響きました。「攻め」の貯蓄。その言葉の意味を、私はその時初めて真剣に考え始めたのです。

貯蓄は「満杯の貯金箱」ではない:目的のない節約が奪うもの

由美さんは私に、こんな例え話をしてくれました。

「恵子さん、貯蓄って、満杯の貯金箱をただ眺めているだけじゃ意味がないのよ。貯金箱は、いつか開けて、その中のお金を使って何かを叶えるためにあるもの。目的地のない旅人が、ただひたすら歩き続けているようなものよ。地図を広げて、どこへ行きたいか、何を見たいかを決めないと、いつまで経ってもただの苦行で終わってしまうわ」

この言葉を聞いて、私はハッとしました。まさに私の人生そのものではないか、と。漠然とした不安を解消するためだけに節約を続け、その結果、人生の喜びや、今しかできない経験をどれだけ見過ごしてきたのだろう。そう考えると、後悔の念が押し寄せてきました。

由美さんによると、総務省の家計調査報告(家計収支編)を見ても、高齢者世帯の貯蓄は年々増加傾向にある一方、消費支出は伸び悩んでいると言います。これは、多くの人が私と同じように、お金を使うことへの心理的な抵抗を抱えている証拠なのかもしれません。

私の「虚しい節約」からの脱却:FPの友人がくれた「人生の羅針盤」

由美さんの言葉をきっかけに、私は自分の人生とお金について真剣に向き合うことを決意しました。まずは、自分の「心の声」を書き出すことから始めました。

「本当は何がしたい?」「どんな時に幸せを感じる?」「このお金で、何が叶えられる?」

最初は、なかなか具体的な答えが出てきませんでした。長年の節約習慣が染み付いていて、お金を使うこと自体に罪悪感すら覚えていたからです。「こんな贅沢、許されるのかな…」そう内なる独白が聞こえるたび、また心が縮こまるのを感じました。

転機:由美さんとの「未来会議」

そんな私を見かねて、由美さんは「未来会議」と称して、具体的なライフプランニングの相談に乗ってくれました。

「恵子さん、まずはお金の『出口』を明確にしましょう。漠然とした『老後のため』じゃなくて、いつまでに、何に、いくら使うのか。具体的なプランを立てるのよ」

由美さんは、私の漠然とした希望を一つ一つ丁寧に掘り下げてくれました。例えば、

  • 「いつか夫婦で温泉旅行に行きたい」→「じゃあ、いつ頃、どこの温泉に、どのくらいの予算で?」
  • 「孫の成長をもっと見守りたい」→「お孫さんの誕生日や入学祝いに、何か特別なことをしてあげたい?」
  • 「新しい趣味を見つけたい」→「どんなことに興味がある?体験教室に参加する費用は?」

最初は「そんなこと、今から決めるの?」と戸惑いましたが、具体的な数字と時期を書き出していくうちに、不思議と心がワクワクするのを感じました。今まで「節約しなければ」という義務感で凝り固まっていた心が、少しずつ解き放たれていくようでした。「そうだ、私、こんなことがしたかったんだ!」と、忘れていた感情が蘇ってきたのです。

「使うため」の貯蓄へ:具体的なアクションプラン

由美さんとの「未来会議」で、私は具体的な「使うため」の貯蓄目標を設定しました。例えば、

1. 毎年恒例の夫婦温泉旅行費用(20万円/年)

2. 孫の大学入学祝い金(50万円/人)

3. 新しい趣味(陶芸教室)の体験費用(5万円)

これらをリストアップし、必要な金額を貯蓄の中から「見える化」したのです。由美さんは、それらの費用を「夢貯金」と名付け、通常の生活費とは別に管理することを勧めてくれました。

「この『夢貯金』は、使うことに罪悪感を感じる必要はないわ。だって、このためにもう十分頑張って貯めてきたんだから」

その言葉に、私は心の底から救われた気がしました。長年の呪縛から解放された瞬間でした。それからは、スーパーで割引シールを見つけても、「これも夢貯金の一部になる」と前向きに捉えられるようになりました。無理な節約ではなく、賢い節約へと意識が変化したのです。

FPの友人が語る!60代からの「賢いお金の使い方」3つの視点

由美さんは、私のように「節約疲れ」を感じている60代の方々に向けて、賢いお金の使い方について3つの視点からアドバイスをくれました。

1. 「守り」から「攻め」へ:貯蓄の目的を再定義する

「60代からの貯蓄は、単に老後の不安に備える『守り』だけでなく、人生を豊かにする『攻め』の要素を持つべきです。退職金や年金で生活の基盤が整っているなら、残りの人生で何をしたいか、どんな経験をしたいかを具体的に考えてみましょう。それは旅行かもしれませんし、新しい学び、あるいは社会貢献かもしれません。目的を明確にすることで、お金を使うことにポジティブな意味が生まれます」

由美さんの言葉は、まさに私の経験と重なりました。漠然とした不安ではなく、具体的な「喜び」のためにお金を使うという視点を持つことが、何よりも重要だと痛感しています。

2. 「投資」はモノだけじゃない:経験と健康への投資

「60代からの『投資』は、株や不動産だけではありません。もっと大切なのは、『経験』と『健康』への投資です。例えば、夫婦での旅行、趣味の教室、友人との会食、そして健康維持のための医療費や運動費用。これらは、人生の満足度を大きく高め、結果的に『健康寿命』を延ばすことにも繋がります。お金は使えばなくなる、という考え方ではなく、使うことで『価値』に変わるという視点を持つことが大切です」

私自身、由美さんのアドバイスを受けて、少し高価なマッサージチェアを購入したり、夫婦で近場の温泉旅行に出かけたりするようになりました。最初は躊躇しましたが、その度に「使ってよかった!」と心から思える充実感がありました。

3. 「家族」との共有:お金の使い道を見える化する

「お金の使い道は、一人で抱え込まず、家族と共有することをお勧めします。特にパートナーや子ども、孫がいる場合は、『このお金で、みんなでこんなことをしたいね』と具体的に話し合うことで、節約のモチベーションも変わってきます。例えば、お孫さんの教育資金や、家族旅行の費用など、共有の目標を持つことで、貯蓄が単なる数字ではなく、家族の絆を深めるツールになります」

由美さんの助言を受け、私も夫に「夢貯金」の話をしました。最初は驚いていましたが、私が楽しそうに旅行の計画を話す姿を見て、夫も「いいね、行こう!」と賛同してくれました。家族とのコミュニケーションが深まるきっかけにもなり、本当に感謝しています。

あなたの節約は「守り」ですか?「攻め」ですか?

特徴「守り」の節約(過去の私)「攻め」の節約(今の私)
目的漠然とした老後への不安解消人生を豊かにする経験や喜びの獲得
行動一円単位の節約、割引シールを追いかける計画的な支出、価値あるものへの投資
感情虚無感、罪悪感、義務感充実感、幸福感、期待感
結果貯蓄は増えるが、心の満足度は低い貯蓄と心の満足度のバランスが取れる
未来漠然とした不安が続く明確な目標に向かって生きる喜び

60代からの「虚しい節約」を卒業するための3ステップ

ステップ1:あなたの「心の声」に耳を傾ける

まずは、あなたが本当に何をしたいのか、どんな時に喜びを感じるのかを書き出してみましょう。どんな小さなことでも構いません。「美味しいものを食べたい」「旅行に行きたい」「新しい趣味を始めたい」「孫にプレゼントを贈りたい」など、具体的な願望をリストアップすることが第一歩です。この時、「お金がないから無理」というネガティブな感情は一旦横に置いて、自由に想像を膨らませてみてください。

ステップ2:お金の「出口」を明確にする

リストアップした願望に対し、どのくらいの費用がかかるのかを具体的に調べてみましょう。そして、貯蓄の中から「このお金は、あの夢のために使う」というように、目的別に分けて「見える化」します。由美さんが教えてくれた「夢貯金」のように、専用の口座を作ったり、家計簿に項目を設けたりするのも良い方法です。こうすることで、お金を使うことへの罪悪感が薄れ、むしろ「このお金で、こんな素敵な体験ができるんだ」というポジティブな気持ちに変わります。

ステップ3:専門家と一緒に「人生の羅針盤」を作る

もし、自分一人で計画を立てるのが難しいと感じたら、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することをおすすめします。専門家は、あなたのライフプランや資産状況に合わせて、最適なアドバイスをしてくれます。年金、退職金、貯蓄、そしてこれからの支出を総合的に見て、無理なく、そして後悔しないお金の使い方を一緒に考えてくれるでしょう。私のように、具体的な目標設定や、心理的なブロックを外す手助けをしてくれるはずです。

よくある質問Q&A:60代のお金と人生のバランス

Q1: 貯蓄が減るのが不安で、なかなかお金を使う勇気が出ません。

A1: その気持ち、とてもよく分かります。長年の節約習慣は、そう簡単に変えられるものではありませんよね。FPの田中由美さんによると、「まずは『使ってもいいお金』の枠を明確に設定することから始めましょう」とのこと。例えば、毎月1万円、年間10万円など、無理のない範囲で「自由に使えるお金」を決め、その枠内でのみ使う練習をしてみてください。小さく始めて、成功体験を積み重ねることが大切です。使ったお金が、あなたの心にどんな喜びをもたらしたかを実感することで、徐々に不安は和らいでいきます。

Q2: 家族に「贅沢だ」と言われるのが心配です。

A2: 家族の理解を得ることは重要ですね。まずは、あなたがなぜお金を使いたいのか、どんな未来を描いているのかを正直に話してみましょう。由美さんからのアドバイスにもあったように、家族との「未来会議」を開き、共通の目標を持つことを提案するのも良いでしょう。例えば、「このお金で、みんなで旅行に行かない?」といった具体的な提案は、家族の賛同を得やすいはずです。あなたが寂しい思いをしていることを伝えれば、きっと理解してくれるはずです。

Q3: もう遅いんじゃないか、と諦めてしまいます。

A3: 「遅すぎることは決してありません」と由美さんは言います。60代は、人生の集大成であり、新たなスタートを切る時期でもあります。これまでの経験と知恵を活かし、自分らしい生き方を見つける絶好の機会です。私自身、60代後半になってから由美さんと出会い、人生が大きく変わりました。今からでも、あなたの人生を彩ることは十分に可能です。一歩踏み出す勇気さえあれば、新しい世界は必ず開けます。

Q4: 節約習慣が長すぎて、何にお金を使っていいか分かりません。

A4: 長年の節約で「お金を使う筋肉」が衰えているのかもしれませんね。由美さんのアドバイスでは、「まずは小さな『ご褒美』から始めてみましょう」とのこと。例えば、普段買わないような少し良いスイーツを買ってみる、気になっていた本を衝動買いしてみる、ちょっと贅沢なランチに出かけるなど、日常の中の小さな喜びを見つけることから始めてみてください。徐々に「使いたいもの」のリストが明確になってくるはずです。

人生後半戦を「最高に楽しい旅」にするために

若い頃からコツコツと節約し、それなりの貯蓄を築き上げてきたあなたは、本当に素晴らしいです。その努力と忍耐力は、誰にでもできることではありません。しかし、その貯蓄が、いつの間にかあなたを縛り付け、人生の喜びを奪う「呪縛」になってしまっては本末転倒です。

お金は、あなたの人生を彩り、夢を叶えるための「チケット」です。せっかく手に入れたそのチケットを、使わずにポケットに入れたまま、旅の終わりを迎えるのはもったいないと思いませんか?

60代は、人生の後半戦。これまでの「守り」の人生から、「攻め」の人生へとギアチェンジする時です。漠然とした不安を解消するためだけの節約ではなく、あなたの心を満たし、家族との絆を深め、新しい自分を発見するための「賢いお金の使い方」を始めてみませんか?

もし、私のように「何から始めたらいいか分からない」と悩んでいるなら、ぜひ一度、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみてください。きっと、あなたの人生の「羅針盤」となり、最高の旅のルートを一緒に見つけてくれるはずです。さあ、あなたの人生後半戦を、最高に楽しい旅にしましょう。

この記事を書いた人

佐々木 恵子(仮名)| 68歳 | 元経理職の主婦、老後の生活と資産運用について情報発信するwebライター

長年、家計の管理と節約を徹底してきた経験を持つ。60代後半になり、節約の目的を見失い虚無感に陥るが、ファイナンシャルプランナーの友人との出会いをきっかけに、お金との向き合い方を根本から見直す。現在は、自身の経験を活かし、同世代の読者に向けて、心豊かに生きるためのお金の使い方やライフプランニングに関する記事を執筆している。趣味は夫婦での温泉旅行と陶芸。夢は孫たちと世界一周旅行に出かけること。